feature. ブランドインタビュー 38explore
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僕にとってのデザインは
機能を組み立てること。
そこが噛み合うと
必然的にかっこいい製品になる。
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SNSの隆盛があと押しになり、近年のキャンプ業界では“ガレージブランド”と呼ばれるインディペンデントなモノづくりが脚光を浴びています。
そのパイオニアとして、ムーブメントを牽引する一人が「38explore(サーティーエイトエクスプロー)」の代表・宮崎秀仁さん(愛称はミヤさん)。
35年以上に及ぶキャンプ歴と、建築デザインの知見から生まれるプロダクトの数々は、コアなアウトドア好きから支持されています。
それだけに留まらず、マニアックかつ愛情の深いユーザー視点でギアメーカーの心を動かし、さまざまなコラボレーションを実現しています。今回、宮崎さんのモノづくりの姿勢や、長年愛用されているプロダクトについてお話を伺いました。
|まずは、宮崎さんのキャンプ歴について教えてください。
始めたのは、小学校5年生の頃なので10~11歳の時。当時は登山の過程でキャンプをしていた ので、本当にミニマムなスタイルでした。ちょうどそれが1984年のことなので、ギアの時代的に言 うなら、ロッジ型のコットンテントからドーム型の化学繊維のテントに移行した頃でしょうか。
|それから現在に至るまで、キャンプのスタイルにどのような変遷がありましたか?
なにか別の目的があって、ついでにキャンプをするということが多かったです。登山の次には、 サーフィンに熱中していたので、前日に入ってキャンプ兼車中泊をしたり。昔はビーチのルールも おおらかでしたので、砂浜で寝ていたこともありましたよ(笑)。キャンプをメインに楽しむように なったのは近年のことで、ちょうどInstagramを始めた2016年頃だと思います。
|2017年に「38explore」をスタートされていますが、プロダクト開発はいつから始められましたか?
もともと所有欲がない方だったので、キャンプ道具も身近なホームセンターで揃えていました。ただ一方でデザインに物足りなさを感じていて。昔は今ほどいいデザインの製品がなかったですからね。だから、プロダクト開発というわけではないですが、自分でペンキを塗ったり、クーラーボックスに板を打ち付けたり、キャンプチェアを使わず、雑貨屋さんで取り扱うイスをキャンプに取り入れるということをやっていました。20~30代の頃は、そういう風にできる工夫を最大限にするという感じでした。
|そういった経験が現在のプロダクト開発に活かされているわけですね。
そうですね。当時のキャンプギアは、本当にかっこ悪いものが多かったんですよ。色を選べたとしても、原色の赤や青や黄色みたいな(笑)。僕自身、建築デザインの仕事をしていたこともあって「なぜアウトドアの分野だけ、デザインがこんなに発展途上なんだろう」とは強く感じていました。だからこそ、リメイクのようなことは昔からやっていたわけですが、2016年に初めてオリジナルの薪ストーブをつくりました。
|それが1stプロダクトということですか?
いえ、薪ストーブは言わば“1st DIY”です(笑)。ただ、それをInstagramに載せたことでかなりの反響がありました。たくさんの方が「その薪ストーブ、すごいっすね!」とDMをくださったり、とにかく感触が良かったんです。それに、「ネルデザインワークス」さんなど、アウトドア業界のさまざまな方と知り合うきっかけになりました。
|当時は、宮﨑さんのように自作のプロダクトをつくっている方は多かったんですか?
いるのはいたのですが、今ほど多くはなかったと思います。発信をしているのも珍しかったのかもしれません。その後、真っ白いクーラーボックスをベージュに塗装して、木の足や棚を付けてリメイクしたものを投稿したのですが、またかなりの反響がありました。それを機にアウトドアのメディアさんからも注目していただくようになりました。
|まさに“ガレージブランド”の走りだったわけですね。そういったSNSの手応えを土台にして、ブランドをスタートされたのですか?
もちろん、それもあります。建築デザインの仕事をやっていたこともあり、人に周知させることの難しさを重々知っていたので、そういう意味ではチャンスだなと。さらに、ラッキーだったのは、キャンプ界隈で今や“ガレージブランド”と呼ばれている方たちが、僕と近いタイミングでブランドを始めたこと。とくに2018年頃はそういう流れもあり、みんなで業界を盛り上げようという空気感がありました。
|宮﨑さんにとって、“ガレージブランド”とはどのような姿勢のブランドだと思われますか?
極論を言えば、マーケティングなんて一切せずに自分のやりたいことをやっているだけ。お客さんのためにつくるわけではないので、ある意味でみんな横柄なんですよ。ただ、だからこそ少数精鋭のファンに深く刺さり、その人たちが熱を持って拡散してくれる。そういう存在だと思います。小規模でやっている分、どうしてもモノづくりに凝ろうとすると、予算や技術の関係で少量しか生産できないこともありますが、そこも踏まえてファンの方々が支えてくださっているというのは感じています。逆に言えば、こちらも試されているので、しょうもない商品はつくれなくなりますけどね。
|ある意味で純粋なモノづくりだからこそ、本当に人の心に深く刺さる製品を生み出すことができるのですね。
僕自身、まさかこんなに共感してくださる方が多いとは思わなかったのですが、自分が欲しくないものはつくらなくていいですし、誰の責任でもなく自分の責任ですべてを実行できる。そういう意味では楽しんでやっています。普通の会社なら稟議が通らないような企画も実現できますからね。
|さまざまなプロダクトを開発されていますが、次につくるものはどのように決定されていますか?
補欠のアイディアがぞろぞろと控えていて、つくりたいもの自体は本当にたくさんあります。ただし、僕は工場の人たちと一緒にモノづくりをするので、一つ製品をつくろうと思うとかなりの時間と労力が必要になります。図面だけ描いて丸投げをするのではなくて、工場へ出向いて、つくり方やコストについてよく議論をしていますし、まったく関係ない工場でも声をかけていただければ見にいくことも多いです。そういう時にこそインスピレーションが湧いてきて、補欠にしていたアイディアとがっちりはまることがあるので。
|デザインと機能のバランスについては、どのように考えられていますか?
今のところキャンプギアが多く、やりたいことが増えるとその分制約が増えるので、デザインはできるかぎりシンプルにして、機能を組み立てるということに重きを置いています。ただ、そこが噛み合うと必然的にデザインもかっこよくなります。たとえば、もともとカメラが好きで、いつもキャンプに三脚を持っていっていたので、「これがテーブルの脚になったら」と機能を組み合わせて生み出したのが「38パレット」だったり。アウトドア業界のデザインは、最近になって少しずつ整ってきているような感覚がありますが、まだまだ穴だらけでやれることはたくさんあると思っています。一つ一つ形にしていくのが大切ですね。
|影響を受けたデザイナーやアーティストはいらっしゃいますか?
僕の師匠である、建築家・吉田保夫さんのもとで勉強させていただいたのは大きかったです。好きなアーティストは、ベルギーの美術家・パナマレンコさんと、スイスの美術家・ジャンティンゲリーさん。この二人に共通しているのは、ガラクタを集めてアートに昇華させているということ。若い時に作品を観て、影響を受けました。あとは、UNBYさんの冨士松さんかな(笑)。前職の時に立ち上げられた〈マスターピース〉の製品が好きで、若い時によく愛用していました。そういう意味では多大に影響を受けています。
|愛用されているキャンプギアの中で、とくに思い入れのあるプロダクトはありますか?
小学校6年生の時に、登山の先輩から頂いた〈コールマン〉のガソリンバーナー。1984年3月と書いてあるので、かれこれ40年近く愛用していることになります。カナダ製だった頃のもので、同じシリーズのガソリンランタンも持っていました。5年に一度くらいしか掃除をしないのですが、まだまだ現役で活躍してくれています。燃料がホワイトガソリンなので、ボンベや灯油式のものが点かないような氷点下でも必ず点いてくれます。まさに冬の必需品ですね。今でも、同じような製品は売っているのですが、火力調整用のレバーが1本に変更されているので、繊細な調整ができません。これはトロ火にすることができるので、シェラカップを使った煮込み料理なんかもつくることができます。ガスストーブで調理をするとすぐに焦げてしまいますからね(笑)。
|このバーナーもVINOVERで探せば、手に入れることができるかもしれませんね。最後に、VINOVERに期待していることがあれば教えてください!
個人的にはリユースに限らず、モノをつくる人が発信できるということに期待しています。以前の僕のように自作でギアをつくったり、リメイクしている人が発信して、そのプロダクトを気軽に売り買いできる。そういうクリエーターの登竜門的なプラットフォームになってほしいです。キャンプ業界の方々はアンテナの張り方がえげつないので、これからモノづくりを始めるクリエーターさんにとって、いいデビューを飾れる場所になるのではないかと。僕も一作家として、製品ではない一点モノの作品をつくって出品したいと企んでいます。
|宮﨑さんのリメイク作品は、プレミアが付きそうですね。
自分で言うのもなんですが、かっこいい自信はあります! ただ、変な価値がついちゃうのは嫌なので、材料費になるくらいの金額で出そうかなと(笑)。
Profile
株式会社38研究所
「38explore」代表
宮﨑 秀仁 Hidehito Miyazaki
1973年生まれ。10歳の頃から登山を始め、キャンプ歴は35年以上。
38explore : www.38explore.com
Dekitech : www.dekitech.com
フリーランスのインテリアデザイナーの傍ら、ギアのリメイクや開発に取り組み、2017年に自身のブランド「38explore」をスタートする。
コンセプトである「Breathtaking
Brainstorm!(=息を呑む閃き)」の通り、既存のプロダクトにはないアイディアで、「38パレット」「38灯」など数々の名作ギアを生み出す。
老舗メーカーとのコラボレーションも多数。2021年にモノづくりファクトリー集団「DekiTech」(https://dekitech.com)を立ち上げる。